【鉄くず拾いの物語】EPIZODA U ZIVOTU BERACA ZELJEZA
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ / フランス / スロヴェニア 2013
監督・脚本:ダニス・タノヴィッチ 出演:セナダ・マリアノヴィッチ / ナジフ・ムジチ
2013 ベルリン国際映画祭 銀熊賞(特別審査員賞・男優賞受賞)
「ノーマンズ・ランド」のダニス・タノヴィッチ監督が母国ボスニア・ヘルツェゴヴィナの新聞記事を読んで、その貧困と差別への怒りを原動力として撮りあげた一作だそうな。
この物語のロマ家の家族は、その当事者が演じていて、そのまんま真実のストーリー。
演技は初めてという、丸っきりの素人だと言うコトになるんですね。
ボスニアの片田舎で暮らすロマの一家は貧しくとも幸せに暮らしていたのです。
が、ある日のこと、3人目の子供を身ごもった妻のセナダが激しい腹痛を訴えます。
夫ナジフは車を飛ばし、妻を街の病院へ連れて行く。
診断の結果、5ヶ月となる胎児は死んでおり、母体を助けるために早急に手術が必要。
大きな病院を紹介され、そこへ運び込まれますが、非情にも保険証を持たないロマ家には工面できない高額の医療費が必要。しかし何とかして妻を助けたい一心の夫ナジフは、あらゆる手で金を工面しようとしますが・・・。
当事者が自分たち一家に起きた出来事を自ら演技してるワケですから、そのリアリティさは痛いほど伝わってくるのも当然っちゃ当然ですねぇ。
演出的にも、ほとんどドキュメンタリーの感覚ですね。
まぁ何が厳しいたって、保険証を持たない患者は(それが生死に関わる病でも)金が払えられないのなら医療を拒否する事なんですよね。
真っ先に言われるのは、「保険証を持ってるか?」。
高額ゆえに、夫のナジフはローン返済を申し出ますが、それもNO。
現金一括払い、というワケですな。
もちろん、弱者を支援する社会福祉団体のような存在も登場しますが、それさえも頼りにならない程度の力しかない。
鉄くずを拾って、それを売って生計を立ててる身には、あまりにも厳しすぎる現実社会ですよねぇ。
そういう現状を知った監督が怒りを持つのも当然だろうし、映画として訴えるのも意義ある事ですよね。
旧ユーゴスラビア連邦から、悪夢のような内戦を経て独立を果たしたボスニアですが、こういう殺伐とした現状も有るんだと言う訴えがヒシヒシと感じられた次第です。
映画としては、かなり地味です。
先に書いたようにドキュメントを観てるような感覚だから、オーバーな感情表現も必要ないリアリティを想像して鑑賞した方が良いかと思います。
なぜか一番印象に残ったのは、街のど真ん中にある原発。
フランス式の(?)建屋みたいものに、けっこう緊張感を感じさせられた。